2021/06/11 のコメントです。
面白く興味深い記事がありましたので紹介します。
ある2人の神経科学者がロンドンのある大手投資銀行のトレーディングフロアで実験をした。ジョン・コーツ、ジョー・ハーバート両氏は連続8営業日にわたって午前11時と午後4時の2回ずつ、17人のトレーダーの唾液のサンプルを採った。その日のトレーディングの大半を行う前と後のサンプルで、テストステロンやアドレナリン、コルチゾールなどステロイド系のホルモンの量の変化を調べた。
トレーダーの唾液を調べるという珍しい実験によって、何が市場を動かし、なぜ市場はわれわれが望むほど安定的でも効率的でもないのかを解明する将来への扉が開かれる可能性があると説明されていた。
データは目には見えない心理的な変化を浮き彫りにした。まず分かったのは、トレーディングがうまく行き利益が出るのはトレーダーの頭脳の力だけではないことだ。というのも、男性ホルモンのテストステロンの分泌が午前に多かった日ほど、トレーディングの成績が良かったからだ。
実はこれは不思議でも何でもない。テストステロンは血中のヘモグロビンの量を増やし、これによって、運ばれる酸素の量が増える。動物と人間の双方の実験で、これが物を探す粘り強さや勇敢さ、リスク意欲などを高めることが分かっている。これらはもちろん、トレーダーが現実の市場で収益機会を追求する時に役立つ資質だ。運動選手は試合前にテストステロンの分泌が増える。これで集中した激しい活動への準備が整う。
ロンドンの実験は意外な結果も示した。心理的・身体的なストレスが高まったときに分泌が増えるために「ストレス・ホルモン」とも呼ばれるコルチゾールが、トレーディングで大きな損失を出したときに増えなかったのだ。コルチゾールはむしろ、トレーディングの結果のボラティリティの高さに比例して増えた。トレーディングの成功と失敗の予想のつかない振れが大きいほど、コルチゾールの分泌が多くなった。このホルモンは十分な量になると、けがや脅威への対応として消化や生殖、免疫システムなどに関連した機能をシャットダウンしてしまうという。
この単純な事実は、市場についての考え方に対し大きな意味を持つ。市場参加者は大半の金融理論で想定されている合理的なロボットではない。彼らは大昔に設計された神経・生理の装置を使って対応する生物体なのだ。市場で起こっていることがホルモンに影響するならば、ホルモンもトレーダーの行動を左右し市場にフィードバックされていく。コーツ氏は新著で、われわれの肉体が、人間に金融のブームと破裂を繰り返させるのかもしれないと論じている。
野生動物を研究する動物学者は、テストステロンに関して「勝者効果」というものを確認している。ライオンやクマの2頭のオスがメスをめぐって戦った後、勝者のテストステロンが急上昇し敗者は急低下するという。これは合理的だ。敗者は休養して回復にエネルギーを使う必要がある一方、勝者はすぐにでも次の相手と戦わなければならないかもしれないからだ。
しかし、勝者効果は最終的に問題をもたらす。テストステロンの増加で自信とリスク意欲を高めたオスは次の戦いにも勝つ可能性が高くなる。勝ち続けるうちにテストステロンの量が非生産的な水準に達する。過度に攻撃的で自信過剰になった動物は愚かなリスクを取り、最後には倒されることになる。
これらの発見に照らして、長期の上昇相場の局面でウォール街に浸透する興奮極まりないエネルギーは総体的に高くなったテストステロンのレベルを反映したものであり、生理的な仕組みが金融バブルを膨らませ得ると考えるのは自然なことだ。相場が上昇すればするほど、トレーダーと投資家はさらに自信満々になりリスクを取りたがる。結果的に、自分たちの不敗をほぼ確信し、次の勝利を信じて根拠なき熱狂に基づくリスクを取る人が市場にあふれる。
コーツ氏によれば、いったんバブルがはじけると今度は別のホルモンが破裂の影響を増幅させる。コルチゾールのレベルが高い状態が長く続くと精神には、不安を感じたり嫌なことばかりを思い出したり、危険がそこかしこに潜んでいるように感じたり、という影響が表れる。そうなると市場は、今度は根拠なくリスクを回避するようになる。金融業界全体あるいは大部分が、せっかく見つけた機会を生かせないような人間の集まりになってしまうため、弱気相場が長期化する。
現在はケンブリッジ大学に在籍するコーツ氏は、ゴールドマン・サックス・グループとドイツ銀行に10年間勤めた後に神経科学者になった。トレーディングに携わっていた同氏は実験を始める前から、インターネットバブル時代の実際の経験から、冷静な理性よりも深い何かが市場を動かしていることを確信していた。
普段は「地に足が着いた用心深い人たち」だったトレーダーたちが「小さな一歩ずつ、有頂天の妄想状態になっていった」とコーツ氏は振り返る。「リスクテークにおいて自信過剰になり、取引の額は一貫して大きくなる一方、わずかなリターンのために大きなリスクを取るようになっていった」という。トレーダーや投資家が冷静でいようとどんなに努力しても、体の中の全ての細胞に働きかけるステロイドの力には勝てない。
ごく最近まで、生物学は経済学から事実上除外されていたが、これは驚くべきことだ。この間違いは頭脳と身体が別々の物で、行動は思考によって導かれると考える合理主義者の傾向に根ざしている。実際は、行動の理由はもっと幅が広い。もし、われわれの体と脳のメカニズムが金融ブームと破裂のリズムをつかさどる主因となり得るなら、そろそろ金融理論に、もっと生理学を取り入れるべきだろう。
コーツ氏は、生理学が市場を動かす原動力の中心にあるという説得力ある理論を展開する。これは総じて見逃されている要素だ。この洞察が、投資家のホルモンの状態に基づいた新しい投資の指標やファンドを生む可能性は十分にある。
これらの記事で私が感じたことは「われわれの肉体が、人間に金融のブームと破裂を繰り返させるのかもしれない」「過度に攻撃的で自信過剰になった動物は愚かなリスクを取り、最後には倒されることになる」「投資家が冷静でいようとどんなに努力しても、体の中の全ての細胞に働きかけるステロイドの力には勝てない」というところです。つまり、人間は生物学的に相場には勝てないということです。
私が常々申し上げている「裁量的」「感覚的」「主観的」に行動すると、上記のような現象を引き起こすことになります。
よって、私は投資において、裁量的、感覚的、主観的な要素を排除した「システム売買」で運用しているのです。
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